兄さんがピアスをつけ始めた。左耳。母さんは少し、それこそ嫌そうな顔を伴って、兄さんの耳を指してこう言った。それどうしたの、と。兄さんは少しおどけたふうに大学生の嗜みだなんだと言い訳じみたことを言った。母さんは少し悲しそうに兄さんを見て、そう、と頷くだけだった。納得は、していなかった。そう。会話を遠くから聞いていた僕だって納得なんてしなかったから。



兄さんがピアスをつけ始めた。右耳。母さんは少し、それこそ嫌そうな顔を伴って、兄さんの耳を指してこう言った。それどうしたの、と。兄さんは少しおどけたふうに大学生の嗜みだなんだと、また言い訳じみたことを言った。母さんは少し切なそうに兄さんを見て、そう、と頷くだけだった。納得は、していなかった。そう。会話を遠くから聞いていた僕だって納得なんてしなかったから。


それからも兄さんはピアスをつけた。左耳。右耳。左耳。右耳。また左耳。また右耳。それから右瞼、左瞼。臍。舌にだって。兄さんはピアスをつけた。ピアスだらけになったあなだらけの兄さんの耳は常に膿で固まっていた。不自然に。毎日ピアスの色が変わるのだ。まるで付ける度にちぎられて、また違うものを付けられる。兄さんはそれでもいうのだ。大学生は、これが普通だからって。度を越している。母さんは泣いた。全て外しなさいと。でも兄さんはごめんと言うだけだった。ごめん、でもそれだけは出来ない。母さんはまた泣いた。僕まで泣きたくなった。




「兄さん、膿ができてるよ」
「うん、知ってる」
「消毒しないと、酷くなる」
「このままでいいよ」
「僕が良くない」




兄さんの耳に触れると兄さんはびくりと体を震わせた。兄さんは何かに怯えている。原因なんて分かりきってる。兄さんの耳についてるピアス。今日は黒色。昨日は金色。なんて憎らしい。兄さんを、ここまで変えてしまえる存在が。僕は、多分、嫉妬していたのだ。このピアスをつけることを許された人間に。兄さんに触れていいのは弟である家族の特権なのに、



「……、っ!」
「兄さん、消毒、するよ」




兄さんが声にならない悲鳴をあげて、僕の手の中には黒色のピアスだけが残った。兄さんの耳は血と膿で穴だらけ。僕はピアスを壁に投げつけた。こんなに小さなピアスでも、塵も積もれば山となるらしい。僕は床を一瞥して。兄さんに視線を戻した。兄さんはずっと耳を抑えていた。それでも兄さんは何も言わなかった。優しい兄さん。かわいそうに。





「兄さんのピアスは僕が全部ぜんぶ、取り除いてあげますからね」





僕は兄さんのピアスに指をかけ、それをひと思いに引き抜いた



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